人権デュー・ディリジェンス

アフリカの子供たち

人権デュー・ディリジェンスって聞いたことありますか?私は今年になってはじめて知りました。デュー・ディリジェンス(due diligence)とは投資を行うにあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することです。リベ大の両学長とかはデュー・ディリと略していますよね。

そのデュー・ディリの頭に『人権』がつく言葉を知ったきっかけはアメリカの調査会社ユーラシア・グループが発表した2022年世界の10大リスクでした。

2022年10大リスク

人権デュー・ディリジェンスは10大リスクの9番目に関連します。

1ノー・ゼロコロナ中国のゼロコロナ政策の失敗により、世界で経済不安が強まり格差が拡大
2巨大IT企業の影響が強まる世界誤情報による民主主義への信頼低下やサイバー攻撃による国際緊張
3アメリカの中間選挙民主党と共和党のどちらが勝っても批判合戦に。政治への信頼が低下し混乱や暴動の恐れも
4中国の内政習政権に対するチェック機能が働かず、中国経済の停滞など政権を誤る恐れ
5ロシア・ウクライナ情勢アメリカやヨーロッパの譲歩がなければウクライナ侵攻の恐れも。アメリカとロシアの関係は極めて緊張状態に
6イラン・核開発計画核合意の立て直しを巡り対外強硬姿勢を崩さず。周辺地域で緊張が高まり紛争のリスク
7脱炭素政策とエネルギー政策の衝突エネルギー価格高騰がインフレや市場不安安定化の要因に
8世界の力の空白地帯アフガニスタンやイエメンでテロ組織が増長、ミャンマーなどで難民流出や内戦の懸念
9価値観の衝突に敗れる多国籍企業企業は環境や人権などへ対応を迫られ、高コスト化にも直面
10トルコ国民の目を経済危機からそらすためのエルドアン大統領の強硬的外交政策で周辺地域の緊張も

人権デュー・ディリジェンス

人権デュー・ディリジェンスとは、企業が自分の会社だけではなくて、取引先などでも人権侵害が行われていないかどうかをチェックして、問題があれば対応するという取り組みです。これに対応しないと企業の経営上の大きなリスクになるということなんです。世界リスクなので、当然、日本の企業も対応を迫れれていたのです。

特に問題になっている人権侵害というのは児童労働や強制労働です。児童労働は教育を受ける機会を奪うなど長年に渡って大きな問題になってきました。ILO(国際労働機関)によると世界中で働かされている子供の数はなんと1億6,000万人にものぼるとされています。アフリカのカメルーンではチョコレートの原材料となるカカオ豆の生産現場でも子供たちが働かされていると指摘されています。アフリカのコートジボワールで無理やり働かされていたとして、当時、子供だった8人が去年、チョコレートメーカーのハーシーや大手食品メーカーのネスレなど世界的な企業を訴えたそうです。

そして強制労働としては中国の新疆ウイグル自治区の綿製品をめぐってウイグル族の人を強制労働させて生産された疑いがあるとの批判がアメリカやヨーロッパを中心に高まっています。ユニクロは綿花の農家などを自社で確認する専門のチームを立ち上げるなどしています。ミズノは新疆ウイグル自治区で生産されたものと確認された綿製品の利用は取り止める方針などこの問題に日本企業も対応を迫れれています。

人権デュー・ディリジェンスの取り組みを企業に促そうとこの十年あまりの間に世界では法整備が進んできているようです。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアでは企業に対して人権への取り組みを公表するように義務付ける法律を制定してきていたんですね。

こうした問題が注目されるようになったのはSNSの普及という要素もあるようです。企業に対する批判はSNSを通して一気に広がるようになってますもんね。炎上すると消費者の間で不買運動が起きたり、株価が下落したり、ブランドイメージが傷付けられたりと経営上の大きなリスクになってきているというわけです。グローバル企業では遠く離れた原材料の調達先もチェックして、問題があれば早急に対策をとることが求められているのです。

企業は人権をしっかり守って企業活動に取り組むことは環境問題への配慮と並んで当たり前に実行しなければならない最優先課題です。企業とは世の中、人のためになるために存在しているので当然と言えば当然なのですが、これまでは自分たちの利益を最優先にしていた企業が多かったということですね。

私たち消費者としては労働者の権利をかえりみない、環境問題をおろそかにしている企業の製品やサービスは敬遠するようにしたいですね。

コスト増と価格の高騰

人権に対する取り組みを充実させることで企業のブランド価値があがったり、新規顧客の開拓につながったりとメリットもあります。ただ、企業が世界中に広がるサプライ・チェーンに潜む様々な人権侵害のリスクを把握した上で対応するには多額のコストもかかってしまいます。私たち消費者目線だと商品やサービスの値上がりが懸念されます。

日本ではアメリカやヨーロッパのような法律は制定されていませんが、おととし、「ビジネスと人権についての行動計画」として企業などが守るべき具体的な取り組みを政府がまとめているそうです。

知らずに安いからといって人権問題の上に提供されている商品やサービスを購入することで、自分自身が知らない子供や立場の弱い人の人権をないがしろにする加害者にもなっているとの自覚しなけばならないですね。私たちの普段の暮らしが世界の誰かの苦しみや企業による抑圧や搾取の上になりたっているかもしれないと目を光らせなければなりませんね。価格が高騰してしまった人権侵害リスクのない商品やサービスを選択する強い意識と経済力を維持しないといけないと思いました。